葛藤
先日、新6年生の子と5年生の復習をしていたときのこと。
18メートルの針金から1.3メートルの針金は何本取れて何メートル余るかという問題があった。小数の割り算の問題だ。
高学年になってから一緒に勉強するようになったこの子は、徐々に変わってきている感じはするものの、まだ一進一退という感もあり、どうにかして花開かせることができないかといつも思っている。
その問題の答えを見ると、そこには13本取れて11メートル余ると書かれていた。
余りに小数点を付け忘れているのだ。
まず聞いてみた。
「11メートルも余るの?だったら1.3メートルの針金はまだ取れるよね?」
すぐに気づいてくれるかなと思ったが、その子はおもむろに11を1.3で割り始めた。
少し見ていたが、何かおかしい気はしているようだった。
「1.3メートルが13本取れるのよね?」
今度はそう尋ねると頷いたので、それなら何メートル使ったのか尋ねた。
1.3×13をして16.9という答えを導き出したようだったので、ここで「あぁ、そうか」と気づいてくれると思って見ていた。
しかし、なぜか彼のワークには「180-169」という筆算が書かれていた。なぜ点がなくなっているんだろう。。。
「180メートルじゃないよね?18メートルしかないんだよね?」
そう尋ねたが、まだ訳がわかっていないようだ。
どうするか悩んだが、
「じゃあ18メートルから1.3メートルを13本取ったらどれだけ残るか図を描いてみて。」
そう促して待っていた。
しかし、線分図を描こうとしているのだが、なぜかそれを18等分している。それじゃ余りはわからない。
少し言うと、今度はなぜか18メートルと決めたはずの線分図が延びていく。どうやら彼には全く何もイメージできていないようだ。
たったこの1問でかなりの時間を費やしている。
彼は小数の割り算の余りの点の決め方は言えば思いだすことぐらいわかっている。「余りは元の位置に点を打たなきゃいけないんだったよね?」そういえば、ものの数秒で片付くことだ。
けれど、それを言って今できたって、しばらくしたらまた忘れるに違いない。その度思い出させていればいつか「暗記」はするだろうけれど、余りの意味がわかっていないのでは何の意味もないように思えた。
私も腹を決め、今日はもしこの1問で時間切れになってしまっても、とにかく「点のつけ方をもう一度教える」ということだけはすまいと、その子との我慢比べを始めた。
色々な方向から何度か質問をし、それでもなかなかその子は気づいてくれず、延々とああでもない、こうでもないと、そこにある数字をいじくりまわしている。
なんだか自分がいじわるばあさんのような気になってきた。言ってあげればすぐ済むことだ。たったひと言、優しく「余りの点はどこに打つんだったかな?」そう促してあげれば、思い出すだろう。
なんで私はこんなことをしているんだろう。。。この子は私のことを「意地悪だ。。。なんで教えてくれないんだ。。。」と心の中で思っているかもしれない。。。教えて楽になってしまいたい。。。
自分の中で何度も何度も葛藤があった。ホントに何度も言ってしまおうと思った。けれど堪えた。
もう一度尋ねてみた。
「13本取れるのは間違ってないんやんね?」
うんと頷く。
「だったら何メートル使ったの?」
16.9メートルと答える。
さっきおかしくなりかけた線分図をもう一度描かせ、尋ねた。
「16.9メートルってその(線分図の)どのぐらい?」
すると、しばらく考えて、18個に分けてある目盛りの17個目あたりを指した。やっと辿り着けそうだ。。。そう思いながら
「うん、そうやんね。じゃああまりはどれだけ?」
じっと線分図を見詰めた後、その子の口から
「1.1メートル。」
やっとやっと待っていた答えが出た。
そこでようやく、なぜ11メートルではなく1.1メートルなのかを尋ねると、筆算をした式を見て「元の位置につけるから」と答えてくれた。すごくすごく嬉しかった。
心なしかその子の顔も晴れ晴れしているように見えた。
どこまで教えるか、どこまで待つか。
学年が上がってから出会った子達には特にそれ意識するけれど、その加減が難しい。
わかりやすく説明するのは簡単だ。説明さえしてあげれば、子ども達はきっと「あぁそうか、わかった」という笑顔を見せてくれるだろう。けれど、それは所詮その場限りのことになってしまうということを、これまでの経験で何度も感じている。
だから極力それはしたくないのだ。
まるで自分がいじわるばあさんのような気になって、なんでこんなことしてるんだろうと、時には泣きたい気分にもなる。
だから、「説明する」という楽な方へ流れることは容易い。そうした方がその場ではずっと「優しい先生」でいられるし、子どもだって延々と悩まなくて済むのだ。
けれど、子ども達にとって大事なもののため、これからも私は葛藤を続けるのだろう。
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コメント
はじめまして
うちの子は「いじわるばあさん」の作ったごはんを毎日食べて大きくなっています。
(どんぐさんからころがってきました)
お体ご自愛くださいね、応援しています。
投稿: ころころ | 2006年4月11日 (火) 09時46分
ころころさん初めまして♪コメントありがとうございます。
どんぐりさんのBBSでときどきお名前拝見していました。
きっとお子さんはステキに育っておられることでしょうね。
愛情たっぷりの美味しいご飯と、じっくり待ってくれる母の愛で。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。
投稿: TOH | 2006年4月11日 (火) 11時31分