出会いと転機(5)
表面的には普通に接することができるようになっていったものの、その後も小さな事件はいくつも起こりました。
ある日の授業中、脚を組んでいた私を見て、先生はその態度をたしなめるつもりだったのかもしれません。でも、先生の口から出た言葉は予想もつかないものでした。
「お、お前脚組むんか?!脚組む女は経験済みらしいなぁ。」
まだ純情で純粋だった私。全く予想の範囲を超えた言葉。数学の授業中、みんなの前でかけられた言葉。
気づけばぼろぼろと涙がこぼれていました。それはそれで先生が予想外。おろおろする先生をクラスのみんなは責め立てました。
また、あるときには部活での問題を同じ学年の部員が集まって話し合っているところに、顧問でもない先生が割り込んできて、よく事情もわかっていないくせにあれこれ言うことに腹を立て、売り言葉に買い言葉で部活の副部長を辞めたなんてこともありました。
とにかくちっちゃな衝突は何度となくあったと思います。そして、私はずっと先生が好きになれないままでした。
それをわかっていながら、先生は何度も私に言いました。
「〇〇、お前、来年も俺のクラスやからな。」
その言葉を聞くたび、とても気が重くなっていたのを思い出します。
一体何がきっかけだったのか、今でもどうしても思い出せないのですが、その後先生との関係は劇的に改善されます。
もしかすると、先生の熱い思いにようやく気づいたからだったかもしれません。
先生はいつでも一所懸命でした。全身全霊をかけて私たちと向き合ってくださっていたように思うのです。
その年の宿泊訓練の直前に、学年で喫煙者が見つかりました。
その頃、私たちの学年は今であれば絶対問題になっているであろうほどすごいレベルの厳しさで管理されていました。抜き打ちの持ち物検査は日常茶飯事。徹底して締められていたにも関わらず、複数人の喫煙者が見つかったことで、宿泊訓練は文字通り「訓練」と化し、予定されていた楽しい行事は全て中止。期間中は延々と班単位、クラス単位、学年単位での反省会が重ねられました。
最終日、連日の反省する姿を見て、先生方もようやく少し笑顔を見せてくれるようになっていたとき、また問題が起こりました。
よりによってうちのクラスの男子が数人、夜に女子の部屋に入り込み、また、見回りに来たときにその部屋の女子達もそれを隠してごまかしたということが発覚しました。
帰りのバスはうちのクラスだけお通夜のようでした。他のクラスはしっかり反省もしたしということで楽しく帰っているにも関わらず、うちのバスだけは私語もできる雰囲気ではなく、ずっと泣いている子達もいました。
学校に着いた後、うちのクラスだけは全員が残され、激怒した先生がルールを破った男子達をものすごい勢いで殴りました。殴られた男子は床に倒れこみました。先生がそんな風に人を殴る姿を初めて見ました。悲しい悲しい顔でした。
そして先生は「こんなもの嘘や!!」そう言って、貼ってあったクラス目標の紙をバリバリと破り捨て、そのまま教室を出て行ってしまいました。
先生のただならぬ雰囲気に、とにかく謝るしかないと先生を追いかけるために友人と2人で教室を出たときに目に飛び込んできたのは、側の階段にしゃがみこみ、肩を震わせる先生の背中でした。
男子達を殴ったときのあんなに悲しそうな先生の顔を見たことがありません。そして、近寄ることさえ許さないほど悲しみに満ちた背中も。。。
(つづきます。)
| 固定リンク
コメント