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2005年12月 3日 (土)

夢を叶えた彼の話

昨日少し書いた、夢を叶えた男の子の話。

彼と出会ったのは、私が個人塾に勤めた最初の年だった。
担当した中1のクラスに彼はいた。

野球部で体は大きく、愛らしい顔をしていて、雰囲気はくまのプーさんのような穏やかな優しい子だった。

とても真面目で努力もするのだけど、残念ながら成績はあまり芳しくなく、真面目な性格から、英語や国語はまだ得点できるものの、数学はかなり厳しい状態だった。

年度途中で担当したとき、正負の計算の符号のつけ方が全く規則性のない間違い方をしていた。その後、何度も何度も練習をしたのだけれど、どうしても間違いのパターンが読めない。
せめて規則的な間違い方であるとか、引っかかりやすいところで引っかかっているであるとか、そういうことなら私も何とかできたかもしれないけれど、講師歴も浅く、パターンも掴めず、ただ問題をこなさせるしか方法がなかった。

彼は出会った最初の頃からずっと、高校は工業へ進むのだと言っていた。正直なところ、現状では公立の普通科は厳しかったから、目標自体が工業であるのは彼にとってもいいことかもしれないと思っていた。

工業に進んだら数学がもっと必要になることは彼もわかっていた。だから一所懸命だった。私も時間外の補習も沢山して、数学に関しては他のどの子よりも時間をかけて指導した。
けれど、彼の数学の成績は芳しくないままだった。

やがて彼は3年生になった。学校の進路指導も始まる。学校の先生も成績を見たら工業を薦めないのは当然のことだろう。進学した後についていけなくて挫折するかもしれない、そんなこともお考えになったんだろう。

親御さんでさえ、「工業じゃない方がいいんじゃない?」と何度も彼に尋ねたそうだ。

だけど彼の意志は固かった。全く、微塵も揺らぐことはなかった。

ただ、残念なことに市内の公立の工業を受けられるだけの成績を残すことはできなかった。

自宅から通える範囲にある私立の工業高校は、その頃私立男子校の中では偏差値が低かったため、工業高校だからという選択ではなく、そこしか行くところがないからという選択で進学する子が多かった。当然、あまりいい話は聞かない。

そんな高校で、この穏やかで優しい彼がやっていけるんだろうか。。。私だけでなく、学校の担任ももちろん親御さんも心配したはずだ。それに、工業高校に行かなくても自動車整備士への道はあるはずだ。私も正直なところ少し迷った。どう言ったらいいのかを。

けれど、当の本人は全く迷いはないらしい。周囲の説得にも全く耳を貸さず、そのままその高校を受験した。
そして、無事合格。春から高校生活が始まった。

高1の1学期に会ったとき、先生に選ばれて学級委員長になったよと教えてくれた。学校も勉強も楽しいと、彼は笑顔で話してくれた。

偶然にも、彼とは誕生日が一緒だったので、卒業してからも誕生日にメールをくれたり、お正月には年賀状をくれたりしていた。

そして、彼は卒業後、自動車整備の専門学校へ進学した。
1年数ヶ月が過ぎたある日、久しぶりに彼からメールが届いた。

「自動車整備士試験に合格したで~~。めっちゃうれしい。」

そう書かれていた。
感動して少し泣いた。

人から見れば小さな夢かもしれない。
有名校に進学して、有名企業に就職することを夢見る人には、取るに足らない夢かもしれない。

だけどそんなことは関係ない。
彼は彼自身の夢を叶えた。彼にとってそれは最高のことだ。
あとほんの少しで、彼は本物の自動車整備士として仕事を始めるんだ。

私の今はまだ叶っていないもうひとつの夢。
それはこの教室で第二、第三の彼、彼女に出会い、共に学び、いつか夢を叶えるその姿を見届けること。

今どんなに勉強ができなくたって構わない。
わかるようになりたい。わかるようになってあの高校に行きたい。あの資格を取りたい。
そんな気持ちを持っている子達と一緒に学びたい。

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