2007年5月 7日 (月)

「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」 武田邦彦著

滅多にテレビを見ないのですが、先日たまたま休日にテレビをつけたところ、ある番組に武田先生が出ておられ、なんだか「世間の常識」とは異なる発言をされていたのが印象に残りました。

「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」 

武田邦彦著 洋泉社

評価 ★★★★☆ (とりあえずみんなに読んでみてほしい感じ。)

テレビで見た武田先生の印象はなんだか飄々としていてややつかみどころのない印象で、そのくせ、世間で言われている常識とは全然違う発言を次々にする姿が強烈に印象に残りました。

気になるなぁと思っていたところ、ネット書店でこの本を見つけ、早速購入してみました。
正直言って、これが仮に全て真実だったら、世間の殆どの人が驚くか怒るか呆れるか・・・そういうことがびっしり書かれています。

もちろん、全てを鵜呑みにはできないかもしれませんが、著者の武田先生は現在、名古屋大学大学院の教授でおられ、ご専門は資源材料学とのことですから、お上を敵に回しかねないこの内容を実名で堂々と書かれるからには、少なくとも大半(もしかすると全て)が真実なのではないかと思います。

この本に書かれている内容が全て事実であった場合、そして、それを一般市民が広く知った場合、先生は国や一部の団体などを敵に回す可能性すらあるわけで、それを押してまでこれを書かれたというのは、やはり人としての良心と学者としてのプライドのようなものによるのではないかと感じました。

内容は5章からなっており、それぞれの章のタイトルは以下の通りです。

第1章 資源は7倍、ごみは7倍になるリサイクル
第2章 ダイオキシンはいかにして猛毒に仕立て上げられたか
第3章 地球温暖化で頻発する故意の誤報
第4章 チリ紙交換屋は街からなぜいなくなったのか
第5章 環境問題を弄ぶ人たち

ペットボトルをリサイクルすると言って回収していますが、実のところは「24本のうち3本」しか再利用されておらず、他は焼却処分などをされているそうです。
また、私達の「常識」では、ペットボトルはフリースなどにリサイクルされるのだと単純に考えているのではないかと思いますが(私はそう思っていたし)、それは本当にごく僅かで、また、ペットボトルに再生しようとした場合も元通りのキレイな状態の製品にはならないのだそうです。

更に、分別回収をするようになったことによって増えた手間、それにかかる人件費その他、また分別することになって以降の急激なペットボトル消費量の増加などが書かれているのですが、これが事実なら私達は一体何のために分別しているのだろうという気持ちになります。 

ダイオキシンの話も書かれていますが、こちらは多分先生がおっしゃっていることが間違いないだろうと思う内容で、だとすれば、ダイオキシンが出るからと焚き火を控えたり、自治体レベルでは莫大な費用を費やして焼却炉を新しくしたりしたのは一体なんだったの?という感じです。

また、地球温暖化についても、「京都議定書」にアメリカが批准しないというニュースは聞いたことがあり、なんて身勝手なと思っていたのですが、それも大きな誤解というか、かなり偏った情報だけが広く知らされているようだということに驚きました。

かなり衝撃的だったのは地球温暖化に関して書いている章に書かれていたこの内容。

国連のIPPCという機関の報告を調べてみると

「北極の氷が溶けたら海水面がどうなるか」ということはほとんど書いていない。なにしろアルキメデスの原理があるのにそんなことを専門家が議論する必要はないので、「関係ない」としている。
 当然である。
 南極の方はいろいろな角度から予測をしているが、平均的な予測としては「南極の周りの気温が高くなると、僅かだが海水面が下がる」という結論だ。(中略)

 
それに対して、日本の環境省の環境白書には

「地球が温暖化すると極地の氷が溶けて海水面が上がる」と書いてある。(中略)
 これに憤慨した私の研究室の一人の学生が、さっそく環境省の係官に電話をした。
「IPPCの報告には、南極の氷も北極の氷も、ほとんど海水面の上昇には関係がないと書いてあるのに、環境白書には南極や北極の氷が溶けて海水面が上がると書いてありますが、これはどういう理由からですか」
 環境省の役人は次のように答えたと、その学生は憤懣やるかたない様子で言っていた。
「IPPCの報告書が長かったので、それを短い文章にしたらこうなった」

(注:武田先生は、温暖化しても海水面は上がらないと主張しておられるわけではありません。)

初めのうちはこれはどこまでが事実なんだろう?と思いながら読みましたが、書いておられる内容が、市民の側、弱者の側に立って書かれている印象を受けますし、第5章などは特に、この方がウソやでっち上げを書かれるはずはないと思えるような、日本の未来、子ども達、孫達のために今何をしなければならないかということが書かれており、愛情を感じます。

石油が枯渇したら、食料自給率の低い日本では多くの人が餓死するだろうと書かれており、その理由も納得の行くものです。
環境に優しいといわれるものも、冷静に判断した場合、それを作るために大量のエネルギーを消費していたりする場合も少なくなく、私達が一般に知らされ、常識だと思っていることが、実はかなり偏った情報のみ与えられた上での「常識」なのだと思わざるを得ませんでした。

全てをそのまま鵜呑みにしてはいけないのかもしれませんが、こういう見方があるのだという意味で、一人でも多くの方に読んでみて頂きたい1冊です。

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2006年10月 9日 (月)

「美しい国へ」 安倍晋三著

初の戦後生まれの総裁、安倍晋三氏の著書を読んでみました。

「美しい国へ」 安倍晋三著 文春新書

評価 ★★★☆

この度、総理大臣になられましたが、私はもともと随分以前から安倍氏のことが好きでした。
まあ、直接存じ上げているわけではありませんから、あくまでもマスコミで報道される情報でのごく一部の面しか見ていないわけなのですが、それでも、拉致被害者の方々に対する安倍氏の姿勢にはしみじみ感動しましたし、単純な私はそれだけで「好きな政治家」というには十分でした。(おまけになんだか可愛らしい方だし。)

で、まだ総理になられる前、まあ、間違いなくなられるんだろうという頃に書店でこの本を目にし、もともと難しい本は苦手だし、政治についても勉強したことがない人間ながら、好きな方のお考え、今後総理になられるであろう方のお考えを読んでみるべきでは思い、手にとってみました。

しかし、文春、岩波などの見るからに「おりこうそうな新書」はホントに過去数えるぐらいしか読んだことがないので、一瞬そのまま棚に返しかけたのですが、最後のふたつの章の「少子国家の未来」「教育の再生」というタイトルが目に留まり、これはやはり読んでおくべきかと。(総理になられたら、どんな風に変えていくおつもりなのかわかるかもと。)

そうは思ったものの、5章まではもともと政治に暗い上、出てきている言葉も結構私には難しい言葉だったり、また、それではいけないのでしょうけれど、興味のない内容だったりもして、ただ目で文字を追っているという感じになってしまいました。

もちろん、知らなかったことで、ああ、そうなのかと思うことはありましたし、新総理のお考えが多少わかったということはあります。
ですが、それにしてはページ数も限られているためか、表面的なことしか書かれていないので、充分にわかるというものでもありません。

ただ、第六章の「少子国家の未来」では年金制度について、これまできちんと知ろうとしなかったことが説明されていたりして、どういう風に年金制度ができたか、どんな仕組みになっているかなど、勉強のなったところがありました。
マスコミの影響で、よく知りもしないのに「将来年金は受け取れないのでは・・・」と思ってしまっているところがあるように思うのですが、もし本当にその可能性があるとしても、まず調べられる範囲で正しい情報を調べて、その上で判断しなければならないのではないだろうかと、ちょっとそんなことを感じました。

何より、そもそも年金というのが「自分がいずれもらうために今積み立てている」のではなく、自分が今納めている年金は今の高齢者を助けるために払っているのだと言われると、うまくはいえないものの、きちんと払わなくてはと思う人ももう少し増えるのではと感じました。

というのも、もし仮に年金がもらえなかったとしたら(同じようなことが著書にも書かれていましたが)、自分の両親などが収入がなくなった段階で、もし生活していけるだけの蓄えがなければ、子ども達が直接援助をしなくてはならないということになり、仮に私のように「自分の子ども」がいない場合は、誰も面倒を見てくれないということになるのだ。そう言われればそうだなと。

で、仮に、そういう人は生活保護を受ければいいじゃないかみたいな意見があったとして、生活保護も結局は国民の税金でまかなわれているのだろうから、受給者が増えるということになれば、それだけ税負担が増えるだろうし、税負担を増やさないというのであれば、受給資格が厳しくなったり、受給額が減ったりということになるだろうし。

そういうことをあれこれ考えていると、もっときちんと年金の仕組みについて国は国民に説明するべきだと思うし、納得してみんなが納められるような仕組みにしてもらいたいと、改めて思いました。

そして、ラストの第七章「教育の再生」については、個人的にここだけで1冊の本にしてもらいたいと思いました。興味のあること、気になることが多いのですが、やはり色々な内容に触れているため、ひとつひとつの内容が薄く、新総理がどういうことをしようと考えておられるかの輪郭はわかるものの、実際具体的にどうなっていくのかなどが曖昧で・・・。
ただ、気になることが色々書かれているため、これまでは殆ど関心がなかったのですが、もう少し政治のこと(といっても教育制度などに関わる部分に関してですが)にも意識を向けなくてはと思いました。

今後の安倍総理のご活躍に期待したいものですね。

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2006年5月 9日 (火)

「国家の品格」 藤原正彦著

話題の1冊を私も読んでみました。

「国家の品格」 藤原正彦著 新潮新書

評価 ★★★★★

実は何度も白状しております通り、私は文字が小さくて難しそうな雰囲気の本はとても苦手です。新潮社とか岩波書店とかの新書は私の中で「難しそう」というイメージがあり、普段書店に行ってもあまり近づかない場所でもあるのです。

でも、先日たまたまテレビだったかでこの本のことを耳にし、ちょっと気になったので読んでみることにしました。

著者の藤原先生は数学者でおられるそうですが、この本に関していえばご専門とは直接関係のない内容です。恐らくとんでもなく頭のいい方だと思うのですが、幸いこの本自体は講演記録を元に手直しをされたとのこと。私でも読み切ることができました。(しかし、ご専門が数学というのに、日本の古典文学から海外文学、国内外の歴史など、あまりに広い知識をお持ちで、とにかく感心しっぱなしでした。)

感想をひと言でいうと、私はかなり好きな本です。
さすがに数学者でおられるので、内容はとても理路整然として読み易く、論理や既存の社会を単に否定するのではなく、それを受け止め、ある部分で認めた上で、「武士道精神」を復活させるべきだと述べておられます。

ここでいう「武士道精神」とは、戦うことではなく、「慈愛、誠実、忍耐、正義、勇気、惻隠、名誉、恥」などの意識をさしているようです。(本文で新渡戸稲造の「武士道」と紹介されていて、書店でそれが現代の文に訳されて文庫になっているのを見つけたので、つい購入してしまいました。)

弱いものイジメを「卑怯」と感じる心も著者のいう「武士道精神」に含まれるようですが、この本を読めば確かに「日本」や「日本人」に誇りを持てる気がします。(テレビでこの本を取り上げていたとき、街頭インタビューに答えている人たちがそんなことを言っていたのが印象に残っていました。)

この本が売れているというのは喜ばしいことのように思います。一人でも多くの日本人がこの本を読み、自分より弱いものを思いやる気持ちを持ってくれたら、世の中はもっともっと住みやすくなるに違いないと思います。

また、他に印象的だったのが、天才を生む土壌に共通していることのひとつに「美の存在」があるということでした。大天才を生んでいる土壌には共通して美しい風景や建物などが存在するというのです。また、様々な分野において「美的感覚」が非常に重要だとも述べておられます。なんだか興味深いですね。

とにかく読んでみて頂きたい1冊ですが、またまた気になる人物が増えてしまい、私の読みたい本はどんどん増える一方です。。。(苦笑)

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