半年かそれ以上前になんとなく気になって購入したものの、直接仕事に関係あるわけでもなさそうだしと、ついつい後回し後回しになっていました。
「『ゆっくり』でいいんだよ」 辻信一著 筑摩書房
評価 ★★★★★
私はあまり詳しくないのですが、この本は「ちくまプリマー新書」となっていて、恐らく中学生や高校生を対象に書かれているのではないかと思います。
以前、お知り合いの塾長さんから「豪快な号外」のお話を教えて頂いたときに「ナマケモノ倶楽部」という名前はネットで目にしていたのですが、その後なぜだったか、この本を購入していました。
相変わらず「積ん読」になっている本はまだまだたくさんあり、何も今これを優先して読む必要があったわけではないのですが、これもまた不思議なもので、今の私はこの本を読むべきときだったのかもしれないなと感じました。
内容は中高生でも読めるような易しい文体で書かれていますので、おバカな私でもスラスラ読めましたし、わかりやすい言葉だから尚更、すとんと心に入ってくる感じもありました。
著者である辻氏は著者紹介によると、文化人類学者、環境運動家で、NGO「ナマケモノ倶楽部」を設立。明治学院大学国際学部の教授でもあられるそうです。
本書の構成は2部、11章からなっており、タイトルはそれぞれ以下のようになっています。
第一部 時間がない!――ファストライフの秘密
第一章 きみと時間の関係
第二章 時間ドロボーは誰だ!?
第三章 時間戦争
第四章 愛はゆっくり
第二部 時間のくにへ帰ろう――スローライフへのカギ
第一章 ナマケモノになる
第二章 食いしん坊宣言
第三章 たのしい引き算
第四章 幸せはお金じゃ買えない
第五章 遊ぼう、外にとび出そう!
第六章 カナダの少女セヴァンの旅
第七章 がんばらないで、ゆっくりと
私たちは知らず知らずのうちに「忙しくしていることがいいこと、暇でダラダラしているのはよくないこと」という価値観に縛られて、見えなくなっているものがたくさんあるのではないかということに気づかせてくれる本です。
子ども向けに書かれていますが、忙しい大人の方に是非一度読んでみて頂きたいと思いました。
私たちは利便性を追求して色々なものを発明、開発して今日に至っています。
ですが、ひとつの例としてこんなことが書かれています。
でもまあ今は、これらすべての問題を横に置いておいて、自動車が省いてくれたはずの時間がどこに行ってしまうのか、という点にしぼって考えてみよう。Aさんが車を買う。これで通勤や、子どもの送り迎えや、買い物がずっと楽になる。つまり、これらの用事がもっと速く(より短い時間で)、簡単に(より少ない労力で)できる、とAさんは考えたはずだ。しかし彼はそこでホッとして、車が節約してくれた時間を余暇としてのんびり過ごすだろうか。たぶん違う。せっかく車という便利なものがあるのだから、とせっせといろんな所に、もっと頻繁に出かけるようになるだろう。今まで行けなかったような遠くて不便な場所へも出かけていこう、と。つまり、車をもつことでAさんが手にいれたはずの時間は、その車でより多くの距離を走るために使われるだろう。時がたつにつれて、距離というものについてAさんの感じ方は大きく変わっていき、以前はとても遠く感じられた場所がもう遠くない。しかし逆に、以前は平気で歩いていたような場所が、あまりに遠くて車でなければ行けないように感じられたりもする。これじゃあいくら道路をつくっても、混雑がなくならないわけだ。
これはひとつの例としてご紹介しましたが、私にとってはあらゆるところで共感し、感動し、考えさせられました。
最新の機械で便利になるはずが、それを手に入れるために一層仕事に励むようになり、結局は「余暇時間」は生まれない。
何かを手に入れると、また次はこれ、そしてその次は…と欲望は留まるところを知らず、その結果、環境破壊や戦争などを引き起こしているのだと。
経済的には日本より遥かに貧しい国でも、日本よりもっと幸せそうで豊かな日々を過ごしている国はたくさんあるということも、とても納得のいくことでした。
同じ日本の中でも、例えば東京や大阪などの大都市と、農業や漁業など第一次産業を中心としているような地域とでは、きっと流れる時間も違うのではとも思ったりします。
神戸生まれ神戸育ちの私は、ここ以外の土地のことをほとんど知りませんし、私の場合、何かを買いたいから仕事を頑張るというわけではなく、物質的欲望を満たすために「忙しい!」と言っているわけではないつもりではありますが、「ゆっくり」というのはなかなかステキなことなんじゃないかなと、そんなことを改めて感じました。
子ども達のペースは大人のそれより遥かにゆっくりであることが多いですから、大人たちがもう少し「ゆっくり」を意識して暮らせたら、子どもたちももっとのびのびすくすく育ってくれるのではと、そんな気もしました。
とても読みやすい本ですので、忙しくされている方は是非一度読んでみられてはいかがでしょう。
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