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2009年1月19日 (月)

「日本の教師に伝えたいこと」 大村はま著 ちくま学芸文庫

随分前に読み始めたのですが、どうも一気に読むことができず、ほかを読んでは戻り、他を読んでは戻りしていたため、かなり時間がかかってしまいました。

「日本の教師に伝えたいこと」 大村はま著 ちくま学芸文庫

評価 ★★★★

こちらはもともと1995年3月20日に筑摩書房から出されたものを2006年に文庫化したもののようです。
内容は以下の5つのテーマになっており、それぞれが大村先生が講演されたものを元にご自身でまとめ直されたもののようです。

いきいきとした教室
身をもって教える
話し合うこころ
目標をさだめて
国語教師に望まれること

あとがきによりますと、1つ目は1993年に秋田県の本庄市教育講座で、2つ目から4つ目までは1991年から93年にかけて、広島県の大下学園国語科教育研究会で、5つ目は1990年に秋田県の日本国語教育学会秋田県支部で講演されたものを元にまとめられたそうです。

先生ご自身があとがきにお書きになっておられますが、講演でお話されたことが元になっているため、内容が重なっているところもところどころありますし、少なくとも、大村先生が教師をしておられた間ずっとお持ちだったお考えというものは一本筋の通ったものであることは恐らく間違いありませんので、先生の他の著書を読まれた方だと、それらとも重なるところはあるかと思います。

ただ、どれを読んでも、大村先生がどれだけ偉大な方だったかということ、どれだけ生徒に寄り添い、生徒の気持ちになっておられたかということ、全ての生徒を伸ばすために私からすれば想像を絶するような努力、万全の準備をし続けられたということ、それらがひしひしと伝わってきます。

主に中学校で指導をされていたのに、どの教材も一度しか使わないということだけでもすごいと思うのに、その「一度」も、適当に準備して適当になどということは一切なく(恐らくそんなことは絶対にできないというお気持ちだったのだと思います)、いつも真剣に、それこそ「命がけ」という言葉も決して大げさではないぐらい、真剣なご指導をなさっていたのだということが感じられ、圧倒されます。

内容はもちろん素晴らしいのですが、中でも印象に残ったところをひとつご紹介します。
長くなるので、まずは簡単にまとめさせて頂きますと、先生が中1、中2の2年間指導されたクラスの中に、小学校の頃から声を出したことがないSさんという男の子がいたそうです。
小学校からの申し送りでわかっており、生徒の中にも「S君はね、何も言いませんから、先生、気になさるな」と忠告してくれる子もいたそうです。
中3は担当なされないまま、Sさんは卒業していかれたそうですが、社会に出てからSさんの消息を聞くことができたそうです。
Sさんは偶然出会った同級生に彼の方から挨拶をし、今どんな会社でどんな仕事をしているかなど色々話してくれたそうです。そして、以下は引用です。

 そして、その変身した動機です。それがいつであったか、もう昔のことで分かりませんが、一時間きりの単元で、インタビューというのが、ありました。四つのグループになっていました。参観のお客様のあった時間でした。(中略)
 時間をきっちり守ることが大事なことでした。壁の時計など見ていると、それだけロスになりそうです。それで、南部鉄のきれいにちーんとひびく鈴がありましたので、それを置き、Sさんを呼んだのです。「Sさん、私はね、指導にまわらなきゃならないんだし、四グループもあるから忙しくて、今何分だなんてとても知らせられない。ここに時間書いてあるから、このストップウォッチを使って、正確に、時間を知らせてね。あまり大きな音をさせないで、ちーんとやってちょうだい。この授業は四十分でやるところに意味があるんで、どうしても合図がいるのよ。お願いね」私は真剣でした。「分かったわね」と言ったら、こっくりだけはしてくれました。私は、任せました。いよいよ、始まり。ひょっと見たら、細い指を鈴の上に当てて、ほっぺたをぽおっと赤くしていました。一所懸命になっていたのです。そしてつつがなく役目を果たしてくれて、授業は終わりました。私はSさんにお礼を言いましたが、彼は何にも言いませんでした。私もみんなも正確に合図してくれてほんとうに良かったと喜んで、張り詰めた一時間の授業を終わったのです。そんなことがありました。
 その日だそうです。緊張して、口はきかなかったけれど、人の役に立つ、かけがえのない位置を与えられて、自信がついて、何かあの日にぱっと心が開いたような気がしたというのです。しかし急に口をきくわけにはいかず、中学にいるあいだは沈黙の人のまま、卒業したのだそうです。
 卒業した途端に花開いて、それから会社に勤めて、今そうやって「Kさん、しばらく。お元気?」などとあいさつする、普通の人になっていました。私は驚きました。ほんとうの効果というのは、そういうものではないでしょうか。(後略)

なんだかとても素敵で、とても考えさせられるエピソードだと思います。
もちろん、他にも素晴らしい内容がたくさんあります。
ご興味のある方はどうぞ。

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