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2007年1月25日 (木)

「ワーキングプア」 門倉貴史著

今回の本は直接仕事には関係なさそうですが、どうもタイトルが気になったので読んでみました。

「ワーキングプア いくら働いても報われない時代が来る 

門倉貴史著 宝島社新書

評価 ★★★☆

ネット書店をうろうろしていたところ、たまたま目に留まった本でした。タイトルも気になりましたし、「いくら働いても報われない」というのは一体どういうことを言っているんだろう?と、他の本を頼むついでもあり、取り寄せてみました。

届いた本の帯にはいきなり

労働人口の4人の1人は生活保護水準で暮らしている

と書かれており、そんなことってあるのか?と思いながら読み始めてみました。

例によって、経営とか経済とかには全く疎いので、著者のことは全く存じ上げていませんでしたが、これまでにも何冊も著書を書かれ、ベストセラーも出されたことのあるエコノミストだそうです。

本書は5章からなっており、それぞれの章は以下のようなタイトルがついています。

第1章 日本の労働者の4人に1人は生活保護水準で暮らしている
第2章 働き盛りの中年家庭を襲う「ワーキングプア」の恐怖
第3章 崩壊する日本型雇用システム
第4章 非正社員で働く若者達
第5章 「構造改革」による自由主義経済と民営化の果てに

また、それぞれの章の終わりには「ドキュメント『ワーキングプア』」と題し、実際に「ワーキングプア」に陥っている方などへのインタビューを全部で10本紹介している。

私はこの言葉を知らなかったが「ワーキングプア」とはそのまま「働く貧困層」という意味で、著書ではこう説明されている。

 「ワーキングプア」とは、汗水たらして一生懸命働いているのに、いつまでたっても生活保護水準の暮らしから脱却できない人たちのことをさす。

この言葉は1990年代にアメリカで初めて登場したとのことだ。

また、著書の中では日本の「ワーキングプア」について、厳密な定義が存在しないとのことで、著者が著書でこう書いておられる。

年収がいくらを下回ったら「ワーキングプア」であるという厳密な定義はまだ存在しないが、ここでは、東京23区の生活保護水準(=2004年度で年間支出194万6040円)を基準にして、働いているのに年間収入が200万円に満たない人たちを便宜的に「ワーキングプア」と呼ぶことにしたい。
 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によって、所定内給与が年間で200万円未満の人の数(所定内給与なので、残業代やボーナスを含めると年収はもう少し多くなる)をみると、2005年は男女合計で546万860人にも上る。

個人的には、この「所定内給与」というのがちょっとわかりにくく、ボーナスや残業代が含まれていないというのであれば、このデータから労働者の4人に1人が生活保護水準と言ってしまうのはどうなのかな?と思わなくもないし、また、基準が「東京23区」になっているので、地方で東京よりは土地や家賃その他の物価も安いという方も含んでいるのだろうから、単純に4人に1人という感覚はちょっと違うのかなと思ったりもする。(と、こんな風に感覚的にものを言っていたら、先日ご紹介したばかりの鈴木氏の著書で何も学ばなかったことになってしまいそうだが・・・。)

まあ、労働者に占める割合はもう少し少ないとしても、実際にそう呼ばれる層は存在し、どうやら拡大しているということは間違いなさそうだ。(しかし、私は雇用されていないので「労働者」とは言ってもらえないわけだが、まあ、多分しばらくの間この層に属していたんじゃないかと思われる。(笑)というか、給与ってことはそれだけは生活するために使えるってことだろうから、間違いなく属していたなぁと。(苦笑))

著者は「ワーキングプア」が増える最大の要因をこう述べておられる。

 最大の要因は、日本の企業が正社員の数を減らして、派遣社員や契約社員、嘱託社員、パートタイマー、アルバイトといった、いわゆる非正社員の数を増やしていることがある。

要因がわかっても、企業も生き残りをかけて人件費を削ってきたという背景もあるだろうし、人件費を削らずにいれば、会社自体の存続が危ぶまれることだってあるのだろう。そうなれば、その会社で正社員だった人たちもいきなり「ワーキングプア」に仲間入りしてしまうかもしれないのだ。
そう考えると、解決の道は非常に険しいのかもしれないと思わざるを得ない。

日本は少し前までは終身雇用が当たり前になっていて、就職というよりは「就社」というイメージが強かったようだ。
そのシステムが確立し、スムーズにまわっていた間は「若いうちは安い賃金だけれど、歳を取れば賃金が上がっていく」という年功序列の賃金制度をきちんと機能させていたとも書いている。

それが崩れ、バブルもはじけ、生き残りをかけての大量リストラ、生き残れなかった企業の社員は失業、ゼネラリストではなくスペシャリスト、初心者の育成ではなく即戦力の中途採用、高い人件費は払えないので安い外国人労働者などの雇用・・・などなど様々な要因が重なって、若い人も中高年も「ワーキングプア」に陥ってしまう危険が高まっているということのようだ。

章ごとに紹介されるドキュメントのインタビュー記事を読んでいると、今どんな高遇を受けている会社員でも、絶対安心ということはないのだなと改めて思う。(もちろん、人生に「絶対」ということはそうそうないのはわかっているが。)

インタビューを受けている人の中には年収800万だったという人や年商14億円の会社社長だったという人なども紹介されているし、教育系の4年制大学を出て一旦は学校の教師になったという女性なども紹介されており、単に学歴がないからとか、もともと安定した仕事に就けなかったからとか、そういう単純なものではないということがわかる。

また、この本を読んで初めて気づいたことがある。さすがの私も「最低賃金」が都道府県ごとに決められていることは知っていたが、初めてその一覧のようなものを見たのがアルバイト情報誌だったこともあって、アルバイトの時給の最低というような感覚で捉えていた。
それも、高校生などの場合がそういう最低賃金を基準に決められているのかなぁみたいな漠然とした思い込みをしていたのだ。

しかし、著者がこう書いているのを読んで、ああ・・・そうなのかと思った。

 この最低賃金を大幅に引き上げることが、「ワーキングプア」の問題を解決するためには、非常に重要といえる。
 実際、現在の最低賃金はあまりにも低すぎて、「とても生活していくことができない」と指摘する声が強まっている。

こう述べ、次いで青森県労働組合総連合とあおもりパート・臨時労組連絡会が行った検証を紹介しておられる。

それは最低賃金での生活が可能であるかを実際に14人の人が参加して検証してみたというものだ。
条件は、青森県の最低賃金による時給で1日8時間、22日間働くことを想定した月収で普通に暮らせるかという検証をした結果、参加者は「ストレスが溜まって、1ヵ月の期間限定でなかったらこのような生活はとてもできない」との感想をもらしたと書かれている。

しかし、読み終わってみて、「ワーキングプア」が発生してしまう要因は理解できたし、また、その要因は例えば一部の人間が利益を搾取するために生じている場合はごくごく限られているであろうとも感じた。であれば、その要因を解消するには非常に高いハードルがあるようにも思える。

正直なところ、私自身いつも将来の不安は抱えているし、仮に私が今の仕事ができなくなってしまったら、この年齢で何か特別な技術を持つわけでもない私がどこかの企業に正社員として、ある程度まともな待遇で就職することは恐らく不可能だろうとも思っている。
要するに、企業で働いていない私でさえ、他人事ではないということだ。

読んでいても気分が明るくなるようなものではないし、ドキュメントの部分などを読んでいるとそこから言い知れぬ無力感、虚脱感のようなものが伝わってくる感じもして、気持ちが落ち込んでいるようなときには決してオススメはできないなぁという感じだ。

ただ、私のように社会や経済に疎い方がおられたら、こんな現実があるということは、知っておかれてもいいのではないかと思う。

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